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▷ 『木と暮らす/クラフト体験』イベントレポート

小川町は、周囲を外秩父の山々に囲まれた盆地。町の面積の半分が林野となっています。今回は、実際にNESTo会員さんにも小川町の木材に触れる機会になればと、木製トレー&コップ&マイ箸といった食器づくり体験を行いました。

また、体験場所はNESToの設計と家具制作も担当してくださったセンティード(株)さんの工房。新旧様々な機械、納品間近の商品など、お仕事の現場も見学させていただき、学びの多い2時間半となりました。そんな様子を、NESToスタッフ(NPO法人あかりえ)の高橋がレポートします。


プログラムは下記の通りです。

9:45 オープニング・自己紹介 
10:00 作業の説明
10:10 木工体験
12:00 工場見学
12:30 感想シェア・解散

 

NESToと木

コワーキングロビーNESToに入ると、まず大きなテーブルや、ミーティングルームの格子壁など、真新しい木の家具や造作に目がいきます。

これらは、小川町の木材を活用してできています。特に、テーブル類とカウンターは、築およそ100年の石蔵と同じ、樹齢100年の杉の大木を余すところなく使っていて、生命力を感じますね。



NESToは、小川町や近隣の森林資源を活用し、地域内で資源循環を生み出す拠点になることを目指してつくられました。そのため、内装以外にも、薪ストーブ床暖房で暖をとったり、里山を楽しむイベントを企画実施したり(親子ハイキングの様子はこちら)、NESToの利用者にとっても森が身近な存在になればと思っています。



さて、そんな中で今回ワークショップのテーマとなったのは「木と暮らす」。

小川町で、代々製材や建具制作を行い、新たに特注家具や内装デザインを行っている木工会社「センティード(SENTIDO)株式会社」の体験スペース「ZAIMOKU TERRACE」にて、木製トレー&コップ&マイ箸の3点セットの制作体験をさせていただきました。



100年杉で食器づくり



蔓延防止措置実施期間中だったため、今回はイベントとして公募を行わず、NESToスタッフや数人の会員さんとともに「研修」という形での開催となりました。

参加者は全員で10名。広くて明るいZAIMOKU TERRACE内で、10時から12時過ぎまで体験を行って、解散となりました。

会場には、既に綺麗に食器の形に切り出された木の材料が並んでいました。どれも八角形をしています。「このまま何もしないで完成でも良いのでは…?」とおっしゃる方も。

まず、センティード代表の笠原和樹さんからご挨拶いただいて、参加者も自己紹介をしました。センティードさんでは、小川町ではもちろんですが、出張ワークショップをこれまでも行ってこられているそう。



今回は、杉の材を大型のデジタル加工機でカットするところまでを事前準備していただいたのですが、そこまでの試作物がいくつも見られました。都度、材料の特徴と作りたいものを照らし合わせて、デザインできるのは、やはり日々手を動かされている会社ならではだと思います。

参加者は、ものづくりに関わるお仕事の方が多いものの、「木工体験は初めてで、楽しみです。」というコメントを多く聞きました。



トレー、カップ、箸を、それぞれ3つのテーブルに分かれて作業を始めました。

まず、色や木目を見て、どれを加工するか選びます。赤い部分、白い部分、黒っぽい部分、直感で手にとりました。この時点で、軽くて柔らかい木の感じがよくわかりました。



トレーは、平らな面が大きいので、まず全体にヤスリをかけて削り出した際の跡を消したら、お好みで「浮造り(うづくり)」にも挑戦しました。

「浮造り」とは、萱の根やヤシ・シュロの繊維などでできたブラシで、木目に沿って板をこすって、木目だけを浮き出させる加工です。手触りが楽しくなりました。



カップは、外側側面、八角形の底面、取っ手、内側…と、ヤスリがけするところがたくさんありました。中側のカーブは、専用の小型回転ヤスリもお借りして、毛羽立ちをとります。指やマーカーなどに紙ヤスリを巻きつけて曲線の処理をする派もいて、方法は様々でした。

ヤスリがけする作業は単純ですが、均等に力をかけるためにはどんな体勢が良いか?細部までよく見るためには目からどのくらい離すか?など、普段のデスクワークではあまりしない工夫を繰り返すので、リフレッシュになった方も多かったようです。


3つの中では、箸が一番、難しかったような気がします。

細い角材を、まずは4面、先が細くなるようにカンナで削っていきます。木型にはめて、上からカンナを滑らせました。


4面が型からはみ出なくなるくらい整えられたら、次は別の型を使って斜めにセット。今度は八角形にしていきます。4面の時と違って、力加減によってはあっという間にいびつになっていくので、集中力がかなり必要でした。

12時になると、みなさん一通り出来上がり、見せ合いました。
カップの飲み口の厚さ、箸の先端の形など、少しずつ違っていて面白いですね。

この後は、センティードさんの方で塗装をしていただいて、NESToで各自受け取ることになります。



仕上がりと、実際に使い始める瞬間が楽しみです。
100年小川町で生きてきて、センティードさんや自分たちで丁寧に加工した食器、長く大切に使っていきたいですね。

 

ZAIMOKU TERRACE



ZAIMOKU TERRACEは、木工体験を一般の方々にも楽しんでもらえる場所として、センティードさんの工房の一角を改装してできた場所です。お仕事の現場と同空間にあるので、一歩踏み入れると、たくさんの材木や見慣れない道具がたくさん視界に飛び込んできます。

せっかくなので、工房の中を笠原さんに案内していただきました。



この場所は、笠原さんが子どもの頃には材木や建具の製材所として稼働していて、今でも当時から動き続けている機械が数台ありました。

当時は機械の刃で指を切断してしまう職人さんも珍しくなかったとのこと。一つの木から無駄なく材料を切り出したり、細かい作業を指先で微調整しながら行ったりという中で、仕方のないことと捉えられていたのかもしれません。

そのため、最新のデジタル加工機を導入し危険作業を減らすなど工夫を重ね、ここ10年あまりは、怪我は一件も出ていないのだそうです。



奥には、合板を糊で貼り合わせるための大きなプレッサーがありました。これは、近隣では貴重な機械で、他の工場からも借りにくる方がいるとおっしゃっていました。

奥に進むと、納品を控えた曲線状の大きなカウンターや、引き出しの多いタンスがありました。どちらもオーダーメイドの特注家具です。

ここでは、食器の切り出しに使用したデジタル加工機も見せていただきました。4.5通りの移動軸を持ち、入力されたデータ通りに材料を切ったり、穴を開けたりの加工ができるそう。

安全装置がしっかりしていたり、故障時には遠隔で(海外から)エンジニアが整備してくれたり、かなり進化した機械のようでしたが、それでもやはり試作を作るのに時間はかかるとのこと。

こちらは、近年注目を集める「Shopbot」。先ほどの機械に比べると、シンプルに操作ができ、DIYの幅を広げてくれる存在です。

このShopbotなどを使って、ZAIMOKU TERRACEが、「こんなものを作りたい!」を形にできる場となったら、というのがセンティードさんの想い。

また、見学中には、社員さん以外に、工房の一角を借りてお仕事をされている方に複数お会いしました。

こういったシェア工房のような使われ方も、今後、整えていかれる予定なのだそうです。

駅から自転車で10分強くらいののどかな場所に位置するZAIMOKU TERRACE。本物のものづくりに触れたいさまざまな属性・年齢層が集まって、思い思いに作業している風景が見えたような気がしました。

 

木と暮らす


最後に、みんなで感想を発表し合いました。

純粋に楽しかったという感想、また訪れたいという感想も多く、普段忙しく働く大人の皆さんにとって良い時間になったことが感じ取れました。

また、木は時間の経過だけでなく、季節や気候に合わせて、伸縮したり変形したり、一定の形を留めない素材です。

加工途中でも、箸の木型に材料がはまらないなど、それを感じる場面はありましたが、今後使い続けていく中で、そういったことにも意識を向けて扱っていきたいなと思います。



加えて、山で木が育ち、それを切って、時間をかけて手作業で加工して…長い道のりをたどってできあがっていることが、体験を通じてわかったので、より大切にしたい気持ちになります。

笠原さんが「贈り物をするときに、“何を買おう?”ではなく、“何を作ろう?”から考える人が増えたらいいなと思います。」とおっしゃっていました。

高度な機械とプロの手を少し借りられると思ったら、つくりたいものがたくさん思い浮かびます。

今回は、実は、地元高校生や大学生を対象に開催するという内容で企画を進めていました。友だち同士の仲を深めてもらうのと同時に、つくった食器が新生活へのエールに繋がれば、と。

また機会を見て、多くの方に体験してもらえたらな、と思います。


主催:石蔵保存活用協議会

※この事業は、埼玉県ふるさと創造資金の補助を受けて実施しています。

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