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▷ [後編]安居昭博さんのトークイベントレポート『小川町で考える、サーキュラーエコノミーとまちの取組み』

コワーキング ロビーNESToにて、10月14日土曜日に開催されたトークイベント「小川町で考える、サーキュラーエコノミーとまちの取組」。サーキュラーエコノミー研究家などとして著名な安居昭博(やすいあきひろ)さんをゲストにお招きして、前半では、オランダや国内での先進事例についてお話を伺いました。

後半では、小川町で活動されている4名のパネラーによるクロスセッションが行われました。

古くからの産業や文化が残り、豊かな自然との共生をはかる循環型有機農業で世界から注目を集めるようになっている小川町。パネラーの皆さんの取り組みの変遷と、今後のビジョンを聞かせていただくことで、小川町の中で私たち自身がどんなことができるのか?考えるきっかけができました。

<セッション編>:小川町の「サーキュラーエコノミー」を考える

1. パネラーの取り組み紹介とこれまでの変遷
2. 未来を考えるクロスセッション
3. 参加者の声を交えてトーク

パネラーの取り組み紹介とこれまでの変遷

まず1人目は、小田穂(こだみのり)さん。

小川町で生まれ育って、大学進学・都内での就職を経て、一昨年からUターンした小田さん。一般社団法人theOrganicで中央省庁や全国の活発な地方自治体とのつながりを作るほか、市民参加型の「小川町SDGsまち×ひとプロジェクト(通称:6S)」の事務局を務められています。また、「むすびめ」や「下里分校」の運営を行うNPO法人霜里学校の理事としても、イベントやプロダクトの企画・開発などに取り組まれています。

最近では、そんなプロフィールを活かして、他自治体からの視察を受け入れたり、反対に町内のプレーヤーと外へ視察に出かけたり。東京や他地域と小川町を繋げるコーディネーターとしての役割も意識されているとのことでした。

2人目は、田下三枝子(たしたみえこ)さん。

38年間有機農業をされるなかで(株)風の丘ファームを立ち上げ、一般家庭・飲食店・自然食品の店など、多様な層に農作物を届け続けてらっしゃいます。

2016年からは小川堆肥組合を結成して、近所の住民も参加できる「バケツで生ごみ堆肥化プロジェクト」を始め、安居さんのコンポストプロジェクトと同様に、堆肥技術者の橋本力男氏が開発した発酵スイッチ役となる“床材”を利用して、キッチンの中で一番厄介な生ごみを共同の堆肥場に回収し、腐らせずに発酵させるという仕組みを地道に作り上げてこられました。その中で2020年に行った「落ちコロ大作戦」という落ち葉集めのイベントでは、子ども達にも楽しく参加してもらったのだと、写真を見せていただきました。

3人目は、笠原和樹(かさはらかずき)さん。

オーダーメイド家具工場、センティード株式会社を経営されています。おじい様の代に林業から始め、お父様の代には量産型の建具製造に事業拡大してきました。現在は、一品生産型で依頼の方の為だけの家具を製作しています。製造中に出る端材や余り材も工場内の棚に保管しできる限り活用する試みをされています。また、工場から出るおがくずは、Plum Garden for campersという近所のキャンプ場や知り合いの酪農、農業などに活用されているとのことです。

時代と共に事業形態を変化させてきたことでできた、工場の空きスペースを『ZAIMOKU TERRACE』という一般の方がモノづくりができる空間として2023年夏にリニューアルオープン予定。2020年より事前予約制のイベント空間として一部稼働し始めています。

最後、4人目は尾島満矢(おじまみつや)さん。

1947年に小川町の教会から生まれた「小川保育園」の園長をされています。2021年には、「小川っ子保育園」を新たに開園。山登り、川遊び、食と農の体験、地域の大人との交流など、園児が五感と手指を使って学べるような機会をつくることを大事にされています。

特に、田んぼは共同作業が多く、人として大切なものを学ぶのにとても良いのだそう。また、野菜や味噌を作る体験を通じて、買うだけじゃなく、作る、という選択肢を知ってもらいたいとおっしゃっていました。

 

未来を考えるクロスセッション

前日に、安居さんは、パネラーを含む小川町の複数の事業者の活動拠点を巡られて、そこにすごいなと思う共通点を発見されたのだそう。

一つは、自分の事業だけではなく地域にも同時に目を向けているという点、もう一つは、今の事業にとどまらず、目線が未来に向かっているという点。

 

そんな安居さんがモデレーターとなって行われたトークセッションの様子をお伝えします。

まずは、安居さんから「事業や地域性といったときに、これから先に向けてどういった取り組みをしたいと考えていますか?」という問いが投げかけられました。

小田さんは、町の魅力は、既に長い年月をかけて様々な人が作り上げてくれているので、そこに学びの場を作り、外からの流れを生み出していきたいと考えているそう。特に、小川町には、循環する生き方のヒントがたくさんあるので、それを外の企業や団体に視察研修などを通して伝えること、そして、小川町内の多くの活動の継続をサポートできればというお話もされていました。

それが自身の楽しみでもあると語る小田さんを、安居さんは、「天性のつなぎ役」と表現。確かに、仕事で小川町と都内を行き来し、駅前のむすびめでは窓口に立ち、20代後半という世代の変わり目の年齢である小田さんは、そういった橋渡し役なのかもしれません。

笠原さんは、ものづくりを通して人と未来が面白くなるようなプロダクトや空間をつくりたいとおっしゃいます。工場内に開かれた空間を作り、関係者以外の人も安心して立ち入れるような場所にする。そこで、地域の子ども達が、人との繋がりを感じながら作りたいものを作れるようになることを目指しているのだそうです。

安居さんいわく、全国の製材所を訪れる中でも、センティードの工場は最も整っていて、ウェルカムな雰囲気も感じたとのことで、笠原さんと町の人のアイディアが合わさって、いろんなコラボレーションができそうだと期待のコメントをされていました。

田下さんは、「バケツで生ごみ堆肥化プロジェクト」の回収場所が、道路工事の影響で使えなくなってしまったので、新たに誰でも持ち込みしやすくて、堆肥場に近い場所に置き場をつくりたいと考えているのだそうです。

また、農薬使用野菜のごみが含まれる堆肥を畑に入れることを不安に感じている農家もいるので、話し合いを通じて認識を合わせていくことの必要性も感じているとお話しされていました。

田下さんと安居さんのコンポストの師匠は共通して橋下力夫さんですが、安居さんが関わる事例だと、駐車場のデッドスペースや、温泉の浴槽を活用して堆肥場をつくったこともあるそう。地域の未活用な場所をまた違った目線でみられそうですね。

 

画像は野菜の出荷残渣を堆肥化するために作った小屋。
この処理方法に習って、小川っ子保育園でも給食残渣の堆肥化を取り組みはじめました。

尾島さんは、地域の人にも必要とされる保育園になりたいとおっしゃいます。最近は、薪づくりや大豆栽培に携わってくれる近所の方が出てきて、着実に目標に近づいているよう。さらに、園に勤める先生のうち5名が卒園生だということで、小川保育園は、生まれ育った町に帰ってきて暮らすきっかけにもなっていました。

安居さんも「地域の中の保育園であり、保育園が地域に溶け込んでいるのが非常に魅力的。」とお話しされて、薪置き場や共同の畑が印象的だった様子でした。

 

 

参加者の声を交えてトーク

最後は、会場から出た質問に回答する形でセッションが行われました。

質問1
「SDGs推進企業の社内の実態が気になっています。完璧な企業はあるんでしょうか?もしくは、どうやったら社内に意識が広まるのでしょうか?」

安居さんは、数々の事例を見てきた中で、確かに、本質的に取り組んでいる企業ばかりではないと思うとおっしゃいます。ただ、現時点でできていなくても、長期的に見て変化があるようなら、それは評価に値するのでは?とも。

笠原さんは、センティード社内で、分別しづらい資材も素材ごとにできる限り分別するようにしているのだそう。そうすることで廃棄物の量を削減、またはリサイクル業者が資源として引取る際のキャッシュバックは、プレミアムフライデーで美味しいものを食べる用に使うなど、動機付けの仕組みも考えられていました。

尾島さんは、小川保育園で、磁器の食器など“割れやすいもの”で食べるように呼びかけているとのこと。また、園内で干し柿を作るなども、子どもたちや保育士、保護者にとっても、季節感と地域性を感じられるという点で、本質的な取り組みなのかなとおっしゃっていました。

質問2
「普及のためには社会システムを大きく作り変える必要があると思いますが、新たな社会の常識として根付かせるためには、どのようなところからアプローチするのがよいでしょうか?」

世界では、業界分析と素材分析によって重点領域を明確にし、優先度合の高いところから取り組むことが重視されているのだそうで、安居さんは、日本でも統計結果を一つの指針にするのも良いかもしれないとおっしゃいます。

そして、それぞれの地域や企業ごとの課題を直視して、やりがい・ワクワク感を持って取り組むことも大切なのでは、と。

小田さんは、小川町では、雇用の創出や挑戦しやすい雰囲気づくりによって、アイディアを持った若いプレーヤーが、安心して活躍できる環境を整えていくのが鍵だと考えているそう。また、そうして、小さいけど面白い事例がますます増えた町について、大企業や中央省庁に関心を持ってもらい、世界に広めるというルートも設計できたらとおっしゃっていました。

田下さんは、コンポストプロジェクトを、忙しい人でも参加しやすいものにしていきたいそう。理想は、直売所で生ごみを回収してもらえるなど、生活動線を意識した仕組みづくりをしたいとお話しされていました。

安居さんも、ご自身が生ごみコンポストを始めてみたら、ごみ出しの頻度が減って生活の負担が軽減した気がしているとのこと。コンポストに限らず、上手くきっかけを作ってあげることは大事な視点なのでしょう。

セッションの最後に、安居さんは、「小川町は小川町として、それぞれが楽しそうに活動されていることで、独自性のある場所になっている。それが印象的だった。」と感想を述べられていました。

登壇された4名の活動をはじめ、小川町には、食と農、エネルギー、人同士のつながりなど、多方面で“循環”を生む動きが見られます。当日参加されている方も、実際に町内外で特徴的な活動をされている方が多かったようでした。

1ヶ月後には、NESToでも、暮らしの中で出てくるごみについて「サーキュラーエコノミー勉強会」を開きます。安居さんとパネラーのお話を受けて、さらに自分自身の生活を振り返る機会として、こちらもぜひご活用ください。

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