▷ [前編]安居昭博さんのトークイベントレポート『小川町で考える、サーキュラーエコノミーとまちの取組み』
昨今、持続可能な社会への取り組みが広まる中で、「サーキュラーエコノミー」という言葉が注目 されています。
10月14日土曜日。コワーキングロビーNESToでは、「サーキュラーエコノミー」の概念と、世界や 日本国内の事例を学ぶことで、私たちの暮らしや小川町を見つめ直すきっかけづくりとなるようなトークイベントが開催されました。
ゲストは、サーキュラーエコノミー研究家、サスティナブル・ビジネスアドバイザーなどとして活躍される安居昭博(やすいあきひろ)さん。アムステルダムを拠点に、関係省庁・企業・自治体に向けた視察・イベントや講演会・セミナーを開催されたのち、2021年より帰国、現在は京都に在住され ています。
2021年6月に、京都の学芸出版社から出版された著書『サーキュラーエコノミー実践 ーオランダ に探るビジネスモデル』では、オランダと日本の17事例が詳しく紹介されており、実践に向けてヒントを得たい多くの人にとって役立つ内容となっています。
本レポートの前半<講演編>では、安居さんのご講演の内容を振り返っていきます。
<講演編>:オランダと日本における「サーキュラーエコノミー」の取り組み 1. 「サーキュラーエコノミー」の考え方 |
「サーキュラーエコノミー」の考え方
<ゲスト講師の安居昭博さん>
「サーキュラーエコノミー」とは、和訳すると「循環型経済」、すなわち、“自然界の学びをビジネスモデルや公共政策に応用し、資源を半永久的に活用し続け廃棄を出さないという考え方のこと” (『サーキュラーエコノミー実践』より抜粋)。
例えば、一般的にも馴染みのある「リサイクル」を見てみると、製造段階では最終的に廃棄することを前提としています。対して、「サーキュラーエコノミー」では、はじめから廃棄物を出さないような製品を作れないか?という考え方をするため、そもそも廃棄というプロセスが存在しません。
安居さんは、「リサイクル」の考え方を対処療法的、「サーキュラーエコノミー」の考え方を予防医療的、と表現されていました。延命措置をしながら短期的な利益を上げることより、いかに安定して長期的に経済活動を続けられるか?ということが求められる時代になっているのですね。
とはいえ、社会や環境に良いことと、経済的に利益を上げることは、なかなか結びつきにくいよう に思います。むしろ、儲からないのでは?と思う方も多いかもしれません。
果たして、サーキュラーエコノミー先進国では、どのようにその両立を図っているのでしょうか。
オランダの事例
<当日は立ち見も含め、30人ほどの方が来場しました>
教えていただいたオランダの事例から、印象的だったことをかいつまんでご紹介します。
まずは、「トニーズチョコロンリー」という企業の取り組み。
フレーバーの種類が豊富で、パッケージもポップで可愛らしく、オランダではシェアNo.1を獲得しているこちらのチョコレート。
実は、児童労働が関わらないチョコレートの生産を目指したプロジェクトで、サステナブルブランドとしても、4年連続国内一位に選ばれているのだそう。
バーの割れ目のデザインにカカオ生産国の形を紛れ込ませたり、わざと不揃いに割れるようにすることで社会の不平等を考えるきっかけをつくったり、間接的に問題提起をすることで、それほど意識が高くない一般層にも考えを広めることに成功しています。
また、別の「フェアフォン」というスマートフォンは、子どもでも分解・修理できる作りになっていて、 2020年に欧州委員会から発表された「新循環型経済行動計画」の中の「修理する権利」をハード面で叶えた製品です。
消費者は、パーツ交換時に古いパーツを返却するとキャッシュバックが受けられ、メーカー側も、 効率よく資源の回収ができるという、双方に嬉しい仕組みになっています。
これは、部分的な故障のためだけに、度々高価なスマートフォンの買い替えをしなければならなかった消費者から共感されたのだそうです。
その他、オランダでは、丸ごと分解と再建築が可能な施設はメガバンクによって建てられていて、 一流シェフによる廃棄食品レストランはオープン5年間で3店舗に拡大していました。
まず第一に、品質と価格で広く一般層に選ばれること。その後、消費者が自然に「サーキュラー エコノミー」のコンセプトを発見するような流れが実現可能なことを、オランダの事例から知りました。
日本の事例
<講演前には小川町の見学も。こちらは、「(一社)山守学舎」の山林。>
オランダの事例からヒントを得たところで、日本はどうでしょうか?
安居さんは、資源が豊富にあるという点で、日本は恵まれているのだとおっしゃいます。
例えば、木に関する資源。オランダのメガバンクによる分解可能な施設の例がありましたが、「SANU 2nd Home」というサービスの中でも、同様に全 部バラして再び同じように組み立てることができる木造建築が採用されています。
この時に、森林面積が小さいオランダでは、輸入木材を使わないことは難しく、さらには製材所や 技術者が不足しがちなのだそうですが、日本ではそれらの資源は比較的手に入りやすいと考えられます。
<小川町の有機農家「(株)風の丘ファーム」の堆肥づくりの場>
他にも、日本国内で安居さんが関わっていらっしゃる事例をみてみます。
黒川温泉など国内4箇所で取り組まれている「サーキュラーコンポスト」。旅館や飲食店から出る生ごみを、もみがらや落ち葉、
可燃ゴミやその処理コストの削減、農薬や化学肥料の使用の軽減、そして、地域内でのコミュニケーションも活発になるのが、サーキュラーコンポストのメリットだと、安居さんは分析されていました。
また、京都では、八ッ橋の端材など地元の廃棄食材を活用した和風シュトーレンが開発されています。シュトーレンの日持ちするという特徴を活かして、製造は福祉作業所が担当。一つのプロジェクトで、複数の社会課題にアプローチしています。
同じく京都の小川珈琲は、地元の農家が生産した小麦100%のトーストを実現。当初、京都では 小麦といえばうどん粉の方がよく作られていたため、農家が見つからず、まずはうどん粉でパンを焼いて実績を上げてから、再度依頼に訪れたのだとか。おしゃれで美味しいカフェの裏側に、 深い想いと地道な努力が隠れている良い事例ですね。
素材を意識した開発
<小川町のオフグリッドキャンプ場「Plum Garden」>
2020年12月、史上初めて、地球上の人工物量が生物量を上回る「クロスオーバーポイント」に達したと発表がありました。20世紀初頭にはわずか3%だった人工物が、使い捨てプラスチックなどにより、瞬く間に増えていたのです。
安居さんは、江戸時代の日本ではサーキュラーエコノミーの仕組みが完璧なまでになされていたといわれています。当時は、ほとんどの製品が、自然由来の素材を用いて作られていました。
自然素材100%で構成された製品は、再び自然の循環に戻すことができるので、廃棄物を出しません。この考え方を応用すると、人工的な素材を用いざるをえない場合でも、単一性素材で開発を行うことで資源循環を生み出すことができそうだと考えられます。
このように、製造過程で資源の価値を落とさないことなど、今までの製品の設計やデザインを抜本的に見直す考え方は、「サーキュラーデザインガイド」としても定められているのだそうです。
今後、サーキュラーデザインの実現のために、素材開発を行う川上の企業と、再資源化の技術 を持つ川下の企業の連携が、国内外で増えてくるのかもしれませんね。
<小川町を代表する有機農家「霜里農場」にも訪れました。>
最後に江戸時代のお話が登場しましたが、その頃すでに、和紙や絹の生産地として栄えていた小川町。そして、ここ50年では、循環型の有機農業で世界から注目を集めるようになった小川町。
後半では、そんな小川町で活動をする4名のパネラーによるクロストークをレポートします。
主催:石蔵保存活用協議会
※この事業は、埼玉県ふるさと創造資金の補助を受けて実施しています。